飲食店で従業員から残業代請求された場合の対応と未然の予防

飲食店従業員(アルバイト・パートを含む)からの残業代請求が急増しています。

飲食店では、決められた勤務時間前にも、掃除、食材や備品類の買い出し、仕込み、グラス拭き等の雑務や、勤務終了後も、掃除、食器洗い、ゴミ出し、会計などの残務が残ることも多く、また、これらの雑務で休憩時間が取れないなどとして、全ての時間が労働時間であるとして、残業代請求されることが増えています。

8時間を超える残業や深夜労働については1.25倍の割増手当、休日労働については1.35倍の割増手当を支払わなければなりません。

ただ、例えばタイムカードを打刻した、最初の時間から最後の時間まで、休みなく上記のような雑務も含めて全てびっちりと働いていたのだから、全てが労働時間に当たるとして多額の残業代請求をされた場合に、本当に支払わなければならないのでしょうか?

答えは、必ずしもそうではありません。

「びっちり働いていた」という抽象的な言葉を前提にするのではなく、具体的に、どんな作業をしていたのか?、これを、一つ一つ丁寧に検証して、現場目線で、本当にそんな作業をしていたのかどうかを的確に見抜くことが重要です。

「仕込み」と言っても、肉を最初から切って焼く必要があるのか、あるいは、既に細切れに切ってパッケージ化された肉を温めるだけなのか、煮物なども、一からの料理をしているのか、調理済みで冷凍されたものを解凍しているだけなのか、店によって千差万別です。

「食器洗い」と言っても、食洗器戦場であれば手間は関わらず、グラス拭きも不要かもしれまんが、手作業であればそうはいかないかもしれません。

「食材の買い出し」と言っても、わざわざ店にまで買いに行く必要があるのか、酒屋や卸業者が店に届けてくれるのを受領するだけなのか、労力は全く異なります。

オーナーが、店の現場で実際にどのような具体的な作業が行われているのかをきちんと把握し、弁護士とうまくコニュニケ-ションを取って弁護士も理解して、「そんな残業なんか必要ないよ」と、現場感覚を持って正しく反論することができれば良いのですが、そうでない場合には、現場のイメージを持てない裁判官に理解してもらうことができず、「きっと、従業員の言うように、いつも忙しくて休む暇なんでないんだろうな」と(そんな繁盛店はうらやましい限りですよね・・)、従業員の言い分を鵜呑みにされてしまい、多額の残業代請求を認定されかねません。

売上状況の電子記録や、レシートのジャーナル、予約受付表等々の物証で、裁判官が思い描くような毎日休む暇もないような繁盛店ではなく、決められた労働時間の中で十分にこれら雑務を行える状況にあり、きちんと休みを取れていることを、証拠を持って証明していく作業も重要です。

決められた時間以外はきちんと休み、自由に過ごすように毎日の指導を徹底したり、無駄に店に早く来させない、無駄に店に残させない、など、徒にタイムカードに打刻された拘束時間がならないよう、日ごろからの予防も重要です。

これらの雑務が、通常はどのくらいの時間がかかるものなのか、これも事前に把握して、マニュアル化しておくことが可能であれば、現場目線を持たない裁判官も、従業員の言い分にのみ惑わされることなく、適切に判断できるようになる場合も多いです。

残業代請求は、過去2年分の請求が可能であり、その方の年俸近くのもの多額の金額が請求されることも少なくありません。

その方だけで終わるならまだしも、労働基準監督署や法律事務所に駆け込まれ、他の従業員にも話が伝わり、あるいは労基署の指導を受けるなどして、全員に対するその支払いを余儀なくされることにもなりかねませんが、経営の存続に関わる大変な事態になってしまいます。

残業代請求に対する日ごろからの予防と、請求があった際の、実務に即した丁寧な反論と立証がとても重要です。